『爪掻き本綴れ帯について』
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帯の織り方については色々な方法がありますが、今回は爪掻き本綴れ帯について調べてみようと思います。
織物は縦と横の糸の交わりで構成されます。
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通常の織物は経糸、緯糸の色が同じ割合で見えるように仕上がりますが、綴れ織は経糸の色や存在は感じられない様に緯糸の色のみ見ることができます。
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通常の機織と同じような機を使用しておりますが、職人さんの手により、経糸を緯糸がくるむように糸を渡す事により緯糸だけの色で構成されるように仕上げられるのです。
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通常の機では、しっかり緯糸を打ち込むように筬(おさ)や櫛を使って緯糸を通す度に整えますが、綴れ織の場合文様が櫛の歯の幅より細かい場合、職人さんの爪を櫛の歯のようにギザギザにして緯糸を整えるため「爪掻き本綴れ」と言われます。
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先日、爪掻き本綴れ帯に50年携わっている職人さんの永井進さんに、機と織りの技術を見せていただきました。
まず、機にかかっている経糸がすべて白色な事にとても驚きました。
仕上がった帯の色は淡い色から濃い色まで様々なのですが、基本的には綴れ織の経糸は白色だそうです。
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綴れ織はこの経糸の存在を消すようにたっぷりの緯糸で包むように織る技術が特徴で、職人さんにとってとても難しく大変な作業だそうです。
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まだ熟練でない職人さんは緯糸に銀糸や金糸を入れて、経糸が少し見えても光の加減で見えにくくなるようにするそうです。よく銀通しの綴れ帯を拝見する機会がありましたが、そのような理由で銀通しの地の物が存在することを伺い、とても驚きました。
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臙脂色や黒色、濃紺などの濃い色目の永井さんの帯を拝見いたしましたが、とても深いしっとりとした色で白い色の経糸の存在は全く感じず、しなやかな織は本当に素敵でした。
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また、綴れ帯は下絵を機の下に置き、その下絵にあわせて色糸を変えていき文様を織りだします。
永井さんは下絵師に頼むことなく、ご自分で意匠も考案するそうです。
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一本一本、永井さんのお考えのもと織りだされる帯は唯一無二のもので、舞妓さんや芸妓さん、梨園の奥様方など沢山のお着物姿の方の中でも格調高く、品よく一つ上のお洒落を楽しみたい方々にもとても人気だそうです。私もいつか手にしたい憧れの帯です。
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文様の色が変わる部分も布の裏一面に糸が渡るのではなく、色変え部分で杼を折り返し織り進めるので、一つ一つの文様の端に「把釣孔」(はつりめ)が見られます。
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これは手織の綴れ織りにしかみられないものです。
細かい文様を織りだす時には筬を使わず、櫛のような物を使用しますが櫛幅よりも細かい文様を織りだすときにはご自身の爪を櫛状にギザギザにして整えるそうです。
文献や資料からその知識はあったのですが、なぜか私はずっと「すべての指の爪を櫛状にされているなんて大変!!普段の生活はどうされているのかしら?」と思っていたのですが、人差し指、中指もしくは薬指の爪をのみ櫛状にするのであってすべての指ではないそうです。また、細かい文様の作業をする時だけその加工を施すそうなのです。
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永井さんの素敵な爪掻き本綴れ帯は、いつかは手に入れたい憧れの帯となりました。
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偶然にも少し前にご縁があり、昭和初期に織られた爪掻き本綴れの袋帯を入手いたしておりました。
芯を入れずに仕立てる八寸の幅の帯ですが、綴れ帯は唯一八寸でもフォーマルに使用しても良い帯になります。 .
八寸ですが袋帯の長さで二重太鼓に結びます。
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時代を経ているものではありますが、色合いもデザインもとても素敵で、尚且つ私の憧れている方の元から私のところに辿りついた帯ですので、大切に大切に締めさせていただきたいと思います。
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最後までお読みいただきありがとうございました。
***yukihanakai***
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数年前より様々な文献を調べたり、産地を訪れ自分なりに勉強をしていた時に作成したノートを基に記しておりますので、このブログの内容は諸説ある中の一つでありますことをご了承くださいませ。
最後までご覧いただきありがとうございました。